七夕祭り第六話

七夕祭り 「とある運び屋と文化祭前夜」

続き物の短め文章、全七回更新
第一話 「運び屋青年と相棒カタツムリ」
第二話 「運び屋とカフェテリアのことりちゃん」
第三話 「運び屋と生徒会食堂の笹山さん」
第四話 「運び屋と家庭科部の木ノ下さん」
第五話 「運び屋と演劇部のマーくん」

とある運び屋と文化祭前夜・6 「運び屋と整美委員会の柏先輩」

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「よしキルシュ、帰るか」

さっきもらったゲームソフトを無言で眺めていたジルは、おもむろにそう告げた

「む、マンガは諦めるのか?」

せっかく俺も乗り気になったのに! とキルシュは不満を訴えてペタペタとジルの耳をつついた
ちげーよ、とこちらもちょんちょんつつき返すと、触られるのを嫌がって少し頭を引っ込める

「これ、今までもらった物の中で一番高額だろ? 換金したらマンガの一冊くらい買えんじゃねーかな」

「成る程!」

引っ込んだ触角がにょこんっと生えた
確かにゲームソフトなら豆腐やエコバッグや開封済みの龍角散と違って買い取ってもらえるだろう、その金でマンガを買えば晴れて二人の目的は達成となる
正直なところ無理だと思っていたが、物々交換も案外うまく行くものだと、キルシュは機嫌良く触角を蠢かせた
そうと決まれば買ってくれそうな店探すぞ、とジルは腰に巻いた上着にゲームを突っ込み、さっきマー君が出ていった屋上広場の扉へ足を向けた

「そこのあんた!どいてぇっ!」

突如耳を刺す男の声、振り返るジルのこめかみをビッと空気を切り裂いて何かが通過した
幾条か切り飛ばされた赤錆色の髪、遅れて頬に感じる風圧、ジルは反射的に首筋を庇った

「おいキルシュ!無事か!」

飛んできた何かはギインッと音をたてて屋上の柵に当たり、柵の向こうへ撥ね飛んだ

「あ、ああ、当たらなかった」

「今の何だかわかるか?」

「金属のにおいがした、でも弾丸の類いじゃない、空気のあたり方からして直状の刃物だ」

「おいおい物騒だな、日本国地域は安全だと思ってたのによ!」

屋上広場には木も植えられる大きな花壇が作られている
ジルはすぐさま体を花壇より低く伏せ、背中を花壇に向けて背後を守った。首筋にくっついているキルシュは素早くポケットに隠す
ジルの作業着は防護耐火に優れた布で出来ているため、布一枚隔てるだけでも防刃効果は高い
ざっとあたりを伺うと、いた、向かい側校舎の屋根の上
斜度60度はありそうなそこで、二人の人間が激しく交戦している
一人は素早い身のこなしの体術で、もう一人は長い得物で応戦しているようだ
体術使いは投擲武器も使っているらしく、得物使いがたびたび攻撃を弾き返している、さっき飛んできた刃物は恐らくこれか
一方得物使いは首にヒレの様なものを巻き付けていて、得物を振るうたびヒレが軌道をなぞって線を描いた
四方からくる投擲武器を弾くため得物使いの動きが大振りになっている
その隙をつき、制空を破って体術使いが間合いを詰めた、構えた両腕の手甲に鉤爪がついている
左腕が相手に向かって閃く、が、その鉤は空を掻きとった、得物使いが過って足を滑らせ、立っていた屋根の頂点から落ちたのだ
いや違う、過って落ちたのではない、彼は屋根を滑って低くなった視界から体術使いの足を打ち払った
不意に低い位置からの攻撃をくらい、体術使いも屋根を転げ落ちる。その瞬間、得物の彼は首に巻いたヒレを解きほどいた
不安定な体制にも拘らず苛烈な速さで体術使いの頭をヒレで覆い、首の位置で一気に締めあげる
そして、耳も視界も遮られて暴れる相手に得物で腹にトドメの一撃をくれると、なんとそのまま屋根から校舎の中庭へ蹴り落としてしまった

「おいおいおいおい!」

ジルは思わず自分の警戒を解き、屋上の手すりに駆け寄って中庭の見える柵の向こうへ身を乗り出した
彼らのいた屋根から中庭へは七階相当の高さで二十メートル以上ある、落ちて無傷で済むはずがない

ジルの視界には石畳の中庭で赤い花を咲かせた無惨な人の姿が……

……―何て事はなく、数名の生徒が発泡スチロールのオブジェに色を塗っている様子が見えた
落ちた彼は一体どこに

「俺の勝ちだっ! ゆーさんっ!」

ジルたちの向こう側からそう叫ぶ男の声
つられて顔をあげると、得物使いが屋根に得物を突き刺して体を支えながら下を向いている
彼の真下には、右手に巻き付けた縄で辛うじてぶら下がっているさっきの体術使いがいた、あの状況から落ちずに持ちこたえたらしい、顔に巻かれた覆いは乱暴に破いて取り払ってある

「けっ、いつも逃げてるお前が調子乗んじゃねぇぞ! あほ! 不良生徒!」

「ゆーさんは仕事あんだろーがこの不良事務職! 梱包して粗大ごみに出すぞ!」

殺気だった戦闘を繰り広げていた二人が今度はぎゃんぎゃんと犬のケンカのような言い合いに発展した
とりあえず、洒落にならない事態は回避できたようで、ジルは安心する

たっぷり十分は口論したあと、気が済んだのか得物使いが屋根伝いにこちらに走ってきた
素晴らしい体感で屋根を駆けぬけ、数メートル飛んで危なげなく屋上へ着地する
右手に携えた得物は真っ黒な木刀だった、着ているのはこの学校の制服で、歳も背の高さもジルとそう変わらない様に見える、濃い茶色の髪が大分乱れて跳ね放題だ

「すいません、さっき打ち返し損ねちゃって」

怪我してません? そう訪ねてくる彼にケンカ中の刺々しさはない、が、よく見ると何故か腰に雑巾やハタキが装備されている、掃除が好きなんだろうか

「あれ? でもあんた、学校関係者じゃないな……まさか不法侵入じゃ……!」

「いやいやいやいや! 入館証あるから! 通りすがりの配達業者だから!」

相手が怪しげな者と見たとたん、剣呑な空気を醸し出す様子にジルは慌てて入館証を見せた
と同時に、一緒に突っ込んでいたゲームソフトが落ちる、プラスチックのケースがカラカラと音をたて二人の前に落ちた

「あ」

木刀の彼はゲームを視認すると目を丸くした、自ら拾うと 「これ、あなたのですか?」 と訪ねる

「それ? 演劇部の副部長に貰った、誰のものでもないのに演劇部の物に紛れてたからってさ」

「ああ、そんなところに……」

そう言って、何か心当たりでもあるのか、彼は「あのバカ」と誰かに向かって悪態をついた
そして少し言いにくそうにしつつも口を開く

「……あなたの貰ったこのゲーム、実は俺、探してて……」


「げっ、持ち主かよ!」

これは予想外だ、貰い物の持ち主が現れてしまった
彼はゲームケースを開けた、一番後ろのディスクを外したところに手書きの文字が描いてある
ジルには難しい字が使われていて読めなかったが「俺の名前じゃないですよ」と彼が言うので、おそらくこれは誰かの名前なんだろう

「正確には俺の友達のですけど、風紀検査の時にどっかに隠してそのまま行方不明だったんです。本人いわく「木を隠すなら森の中……」とか言ってたんですけど、どこにあるんだかさっぱりで」

「あー、それで演劇部のCDに紛れてたのか、良いよ良いよ、持ってきな」

持ち主が探しているものを無理に奪う気はない、ここは快くゲームを返してあげよう
だがジルたちにも都合がある、ここは何か代わりになるものを貰わなければ
ジルはゲームソフトを渡し、何かいいものを持っていたらくれないか、打診してみる

「え、俺、見ての通り整美委員会の担当掃除してる最中だったんで、ゴミ袋くらいしか……」

「いや、見ての通りって、さっき掃除そっちのけでバトってたじゃん」

「あの野郎は社会のゴミです、だからアレはゴミ掃除です」

「言い切りおった! てゆうかさっき首に巻いてたのもしかしてゴミ袋か!」

ほらこれ、と見せてくれたのは本当にゴミ袋だった、相手の顔を可燃物用ゴミ袋で絞めていたらしい、あとで燃やす気だったんだろうか

「ゴミ袋じゃあ……マンガは買えねぇな」

「マンガ? あんた一体何がしたいの?」

「かくかくしかじかだ!」

説明は割愛する

「物々交換でマンガが欲しいんですか……欲しいマンガのタイトルとか、わかります?」

「ああ、おつかいのメモ書きに書いてある」

ジルはスグルにもらったメモを渡した、ちょうどその時、屋上広場を望む場所にある窓が一つ開けられる
白いジャージを着た男子生徒が一人、窓から顔を出した

「あ! 柏! 見つけた!」

窓からあたりを見渡した生徒は、ジルの前にいる得物使いを確認すると、こちらに向かって声をかけてきた
“かしわ”というのは得物くんの名前だろうか、こちらの彼も 「あ」 とひと言発して視線をやる

「意気揚々と掃除ザボって何してんだよ! こちとら教室がスズランテープの海で静電気すごいんだぞ、お前がゴミ袋持ってるんだから勝手にどっか行くな!」

「もずく、喜べ、お前がどっか置き忘れたゲームこの人が見つけてくれたぞ」

「え、マジか! アザす!」

あれがゲームの持ち主か、白ジャージは窓からジルに向かって礼を言う。ジルもちょっと手をあげて挨拶を返した
得物使いこと柏くんは渡されたメモにさっと目を通すと、ふたたび白ジャージに向かって声を張る

「そんでもずく! ゲーム見っけてもらった礼に、この人にお前の後輩紹介して欲しいんだけど」

白ジャージは柏くんの言葉にきょとんと一拍置いた後 「良くわかんねーけど了解、ちょっと待ってろ」 と頭をひっこめて窓を閉めた、こちらにやってくるつもりのようだ
柏くんは持っていたゴミ袋一枚をつけてジルのメモを返す

「あいつと一緒に行ってみてください、あなたが探しているマンガ、手に入るかもしれません」



続く

次回最終話
エピローグをつけるので実質最終話は次の次

ゆーさんと柏
七夕戦争・3・4

柏ともずく
ハロウィンマンガまとめ

慣れない靴で二時間歩いたらマメが四つできました
指の火傷が治ったと思ったら今度は足か!

ままならねぇな! もう!

ハチャメチャな恋愛事情のそーの先に―

七夕祭り第五話

七夕祭り 「とある運び屋と文化祭前夜」

続き物の短め文章、全七回更新
第一話 「運び屋青年と相棒カタツムリ」
第二話 「運び屋とカフェテリアのことりちゃん」
第三話 「運び屋と生徒会食堂の笹山さん」
第四話 「運び屋と家庭科部の木ノ下さん」

とある運び屋と文化祭前夜・五 「運び屋と演劇部のマーくん」
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日はだいぶ傾いたがまだまだ空は明るい
計画的、もしくは無関心な生徒は、明日のためにそろそろ下校し始め、無計画かつテンションだだあがりの生徒はまだまだ帰りそうにない
切羽つまった人間の出す一種の不穏な空気は濃度を増すばかりだ、ついでにラッカー臭い
ジルは特に目指すものもなくふらついて、現在校舎四階にいる
展示や模擬店があるのは三階までとなっているため、一つ階を上がっただけでぐっと人が減った
四階は主に学校案内など千種川学園への進学を希望する外部向けのコーナーになっており、もちろん設置はとっくに終わっていて、なかで準備をする者は誰もいない
下の階で作業場所を追われた生徒数名が、廊下に新聞を広げて段ボールに色を塗っているくらいだ
四階はこれまでの階と造りが異なり、南側は教室、北側が屋上広場になっている
そう高い階でもなく周囲も住宅地なので、屋上広場からの眺めは大して良くないが、動いたり走り回るに十分な広さだ

「屋上あるぜキルシュ!行こう!」

「うむ、どこにでも連れていけ」

知らない建物を歩き回る探検気分でテンション上がり気味なジルと、何だかんだ言いつつ面白くなってきたキルシュ
二人は迷うことなく屋上への扉を開けた、目的のマンガ探しは頭から抜けつつある

「マ"ぁーぐう"ぅぅぅん"ん"ん"っ!」

「副ぶぢょお"ぉぉぉぉー!」

飽けた瞬間、屋上にしゃがれた叫びが響いた




少年A 「僕はもうダメだ……みーくん、みんな、ごめんね……」

少年B 「マーくん! 副部長のお前が倒れてどうする! だいたい部員ギリギリだから代役いないんだぞ!」

部員1 「そうです副部長! あなたがいなかったら誰が照明のローテに入るんですか!」

部員2 「BGMの編集やるって言ったくせにまだ終わってないんですよ!」

部員3 「てゆうか衣装汚れるから倒れるなら服を脱げ!」

少年A 「ふふ、みーくん、僕は幸せ者だね……こうしてみんなに心配されて逝けるんだから……ゴホっ」

少年B 「マーくーん! 逝くならお前が抱え込んだ仕事終えてから逝けー!」

マーくーんんんっ! 副ぶちょぉぉーっ! 叫び続ける周囲
少年Aは悲しそうに空を仰ぐ

少年A 「ああ、テンションあがりすぎて 『合わせもかねて本番衣装フルメイクで通しセリフ練しようか』 なんていうんじゃなかったね。まさか途中から叫び芸のアドリブ合戦になって、咽つぶしちゃうなんてさ……」

部員1 「ええ、おかげで私も咽が痛いです!」

部員2 「でもちょっと楽しかったです!」

部員3 「後悔は後の祭りです!」

少年B 「文化祭前なのにな!」

少年A 「ああこんな時、咽の特効薬をもった親切な人が、たまたま都合よく僕たちの前を通りすがってくれたら……」

全員  「いいのになー!」




「アホいるぞ」

「いるな」

ジルとキルシュの視線の先では、奇妙な格好をした男女数名が歌を歌っている。 (ちなみに曲名は童謡 「そうだったらいいのにな」 )
真ん中には黒い衣装を着た少年が倒れ込み、もう一人の少年が抱えている格好だ
しかもその衣装がすごい、体のラインにぴったり沿っているうえ脇が丸見え、まわりにいる人間も、派手な蛍光色だったり山盛りのフリルに埋もれていたりと奇抜過ぎる

「つーか全員こっち見てるんだけど」

「視線が痛いな」

「あ、セリフが最初に戻った」

「同じことをもう一度やるようだぞ?」

「うん、帰ろう」

ジルは屋上広場の扉を閉めた

「ジル、目的はどうした! 貰い物を交換して、スグルのマンガを手に入れるんだろう。 “りゅうかくさん” はのど飴だ、相手はのどを痛めている、絶好の物々交換相手になるじゃないか!」

「でもなぁ」

ジルはぐりぐり肩を回して明後日を向いている。アホ集団に龍角散を渡すのは乗り気でないらしい

「俺としては、合唱部とか声楽部的な? 女の子いっぱいいそうな部にあげて、顧問の美人女教師あたりに感謝された方が気持ちいいってか、なんつーか、ほら、音楽室は五階にあるみたいじゃん、そっち見に行きてぇな」

「がっしょうぶのごも"ん"の"ぜん"ぜぇ"はぁぁぁぁ!」

バーンっと屋上への扉が開く、さっき屋上で倒れていた少年Aが仁王立ちしていた
おそらくマーくん、とか副部長、と呼ばれていた少年だ、本当につぶしてしまったのか声がガラッガラになっている

「六十代の"……白髪交じりで……低身長の……男の人です"……ゴホッ」

「…………うん……わかった、俺の負けだ、あげよう」

ジルは龍角散をポケットから出した




「あなたで無視されたの12人目で、そろそろきつかったんです、ありがとうございました」

龍角散をなめつつ、副部長くんは滑舌よく礼を述べた。良い声だ、音もクリアでよく通る。
なんでも彼は演劇部で、本番用の衣装を着てここで文化祭前最後の練習をしていたらしい
練習しているうちに声の張り過ぎで枯れ初め、普通ならここで切り上げるところを、狂ったテンションのせいか 「僕たちの演技で誰かに助けを求めてみよう!」 となったらしい

「最初は 『この即興芝居で手を差し伸べてくれる人がいたらすごくね?』 ってやり始めたんですけど、この階で準備してるのは進路指導の先生とかその手伝いの生徒ばっかりで、全然声かけてくれなかったんです。一人二人と無視されるうちに、もう意地でもやってやるって、引っ込みつかなくて本当に声が枯れかけました」

「アホだ」

「アホだな」

ちなみにほかの部員たちはありがたく龍角散をもらうと 「俺たち先に準備もどるんで、副部長あとよろしく」 と行ってしまった
一人残された彼は、練習に使っていたのであろうラジカセや小道具をまとめている
成り行きでジルも手伝った

「で、副部長君」

「どうぞ僕のことは親しみを込めてマーくんとお呼びください!」

「マーくん、のど飴はあげたじゃん、実は俺、それを使って成し遂げたい目的があってね」

「!」

ズサっと驚きのリアクションをとるマーくん、いちいち振りが大きい

「まさか! あの龍角散を届けに行く相手がいたのですか?! それを横取りしてしまうなんて! ああ僕は何て事を! すみませんすみません! 僕なんかがもらってしまってすみません!」

「面倒くせぇやつだな」

「ジル、あきらめるな、幸いにも言葉は通じる」

「大事なものを失った心の痛み! あなたはその切なる気持ちを僕に訴えているのですね!」

「通じてるか?」

「通じてないかもしれん」

副部長ことマーくんは、ああ、ああ! と劇的な振りを入れながら持ってきた小道具をあさりだした、そしてビッと透明で四角いケースを取り出す

「では、代わりにもなりませんがどうぞこれを、お詫びに差し上げます」

「なんじゃこら」

「ゲームソフトです」

渡されたのは厚めのプラスチックケースだ。白地にゲームのタイトルが印刷されているだけのシンプルなパッケージ、中には4枚のCDロムが入っていた

「演劇部の舞台で使うBGM用CDの中にまぎれてたんです。聞いてみても誰の持ち物でもないし、ゲームの持ち込みは校則違反ですから、忘れ物で届けたら没収されます。どうしたらいいか扱いに困っていたので、あなたにあげます」

「あげますって、誰のかわからねぇのにいいのか?」

「卒業した先輩の忘れものじゃないかと思うんですよね、10年以上前の初代プレステ用ゲームですし、大丈夫です」

「そっか、じゃ、ありがたく貰っとく」

「はい!」

荷物をまとめ終ったマーくんは、ほかの演劇部員に合流すると言って屋上広場を後にする
重そうなので、荷物持ってやろーか、と声をかけたが、いえ、僕はこの業 (カルマ) を背負ってゆくのです! とキラキラしながら言うので、ドアだけ開けてやり、見送ることにした

「じゃーなマーくん、頑張れよ! 三文芝居そこそこ面白かったぜ!」

「ありがとうございます! でも三文は余計なお世話でーす!」

マーくんは相変わらず、黒くて体のラインと脇が丸見えの奇妙な衣装を着ているが、恥ずかしげもなく廊下を歩いて行く、舞台の上ではああいうやつこそが輝くものなんだろう

「うーん目的のマンガは遠いなあ、手に入ったのはゲームか。スグルは日本国のゲームも好きって言ってたし、これ持って帰ったらあいつ喜ぶかな」

ジルは空に向かってもらったゲームソフトを掲げてみる、プラスチックケースが夕日を反射してまぶしい。
初夏のノロマな太陽がじわりじわりと地に沈み始めた

続く


だいぶ古いマーくん ・ 忘れ物を届けに行くマンガまとめ




近況報告

揚げ物してたら一緒に自分の指まで揚げてしまいました、めっちゃ痛い
今は痛みも引いて立派な水ぶくれです、ぷにぷにする

月末が忙しそうなので次回も更新遅いです

七夕祭り第四話

七夕祭り 「とある運び屋と文化祭前夜」

続き物の短め文章、全七回更新
第一話 「運び屋青年と相棒カタツムリ」
第二話 「運び屋とカフェテリアのことりちゃん」
第三話 「運び屋と生徒会食堂の笹山さん」

とある運び屋と文化祭前夜・4 「運び屋と家庭科部の木ノ下さん」
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シュタタタタタタタタタタタタッ、キュイイイイイイィッ

ブルーのジャージ姿の少女は、ローファー履きにもかかわらず、素晴らしくエッジの効いたコーナリングでコンビニの角を駆け抜けた
そのまま駐輪場の前をすっ飛ばし、生徒用玄関に飛び込む
背中を伝う汗が気持ち悪い、咽がカラカラする、この壁でも殴りたい気分はどこの壁にぶつけるべきなんだろう?

木ノ下ユイカは家庭科部に所属する生徒だ
文化祭では、部で作った服やぬいぐるみ、アクセサリーの展示と簡単な手芸品販売を行う予定となっている
部員はみんな、自分の作品のラストスパートに忙しい
例に漏れず、彼女もデッドライン目前である
疲労は現在ピーク、絶賛脳内麻薬発生中、完全にランナーズハイ、いわゆる深夜テンション状態で、疲れ切っているはずなのに気力だけが無駄に高い
三日で五時間睡眠はさすがに無茶で、朝から咽が痛いし、通学の電車では座席に座った瞬間気絶したように寝落ちした
たぶん何をされてもピクリともしなかっただろう、学校の最寄駅で目が覚めたのは気力のなせる技か
そんなユイカの展示作品はワンピースだ
販売用の作品を作りつつ、デザインを考えて型紙を起こし、布からボタンから全て自分で選んだメイドイン木ノ下ユイカのオリジナルワンピース
展示用にちょっと裾丈と装飾を増やしてドレス風になっているが、簡単な手直しで普段使い用デザインへチェンジできるように作ってある

「作ってあった……はずなのに……」

そう、この土壇場になって致命的な採寸ミスが発覚した
必要となったのは袖の作り直し、しかし肝心の作り直す布が足りない
学校近所の手芸店は夕方には閉まってしまう
気が付いたのは午後3時、大慌てて買いにいったが 「ごめんねぇ、その布全部売れちゃってねぇ」 と言われ、今に至る

(あと少しで完成なのに……!)

ワンピースに使った布は珍しい模様の布だった
何せこのワンピース、ユイカの姉のオタク趣味を詰め込んだ特別製だ
姉が最近 「あたしこのキャラ超好き!」 と言っていたゲームキャラをモチーフにした
ところどころゲームの要素をちりばめつつも、わからない人には普通の服にしか見えない、隠れオタク仕様 (ちなみに部内で気が付いたのは三人、服がオタク発見器になってしまった) の特製ワンピース
姉とユイカは身体のサイズがほとんど一緒なのでシェア着にしようと思い、せっかくなら姉が喜んでくれる服にしようと、自分はさっぱりわからないゲームの公式サイトとにらめっこして作った自信作
わざわざ取り寄せで頼んだ高い生地を使っている

(ここまで頑張ったのに、完璧に作って、ゆゆこちゃんに見せたかったのに……)

汗が目に入って視界がぼわりとにじむ
ぼやぼやしている暇はない、たとえ欲しかった布が無くても、作品は仕上げないと展示に間に合わない

(早く……部室に戻ろう……)

疲れすぎていたのと、炎天下をダッシュしたのと、気力が抜けたのと、タイミングが悪かった
急いで上がっていた階段から

ッガ 

「あ」

つま先が滑り落ち、ユイカは後ろ向きに落下した

「危ねぇっ!」

バスンッ

ろくに受け身も取れなかったユイカは、固めのマットの上に落っこちた
いやそんなマット、都合よく階段下にあるわけがない
生きてる? 大丈夫だよな? とマットがユイカに声をかける
視線をあげると黒い半そでシャツを着た知らない男の人がいた。この人がユイカを受け止めてくれたようだ
立ったまま女子高生一人を受け止めるとはすごい力持ち、今も腕にすっかり抱き留められてしまっている、お姫様抱っこ初体験だ

「怪我してない?」

「はい、平気です……」

びっくりしてすっかり毒気が抜けてしまった。ユイカは降ろしてもらおうと視線を下げ……

「これはっっっ!」

「あ、それ? さっきもらった “えこばっく”「私が注文した布おおおおっ!」

道理で手芸店から無くなっているわけだ、他の生徒がユイカの注文の残りを買い占めていったんだろう

「おにーさん! これください!」

「え、またこの展開?!」

「三つ柏に下がり藤の染め抜きなんてマニアックな布はこれしかないの! ああぁっ時間無い! 今すぐ三階の被服室に行って!」

この布袋、バラせば袖にするのに十分な量の生地がとれる!

「私のワンピースが待ってるの!」

「今週のジャンプの話?」

男の人はユイカを軽々と抱えたまま、三階の被服室へ運んでくれた




「俺の新しいベットが早くも切り刻まれている」

「さっき、あの袋で寝るの嫌だっつったじゃん」

「寝るのが嫌なのと誰かのものになるのはまた別の問題なのだ、全く、相手が女だとホイホイいうことを聞くな?」

「おーすげぇ、あの服自分で作ったのか、器用なもんだな」

ジルがあげた “えこばっく” をサクサク解体した女の子は、型紙を当ててチャコペンで線を引いている
どうやら作っている服の袖の部分になるらしい、なるほどエコバックは服につかわれている生地と同じ模様をしている
裁断を終えた女の子は一息つき、改めてこちらにやってきた

「おにーさん、ありがと! おかげでワンピース完成しそう!」

「よかったな、でも足元もう少し気をつけろよ」

「うん!」

頬は赤いし目の下はクマができていて、疲れているのか足取りが危なっかしいが、女の子は実にさわやかな表情だ

「あーでも、えこばっく無くなっちゃったな」

「え、もしかしてアレ大事なものだった?!」

「俺はいいんだけど、相棒がごねててさ、何でホイホイあげちゃうんだ―って」

「相棒さん?」

「そ、俺ここに荷物の配達に来てて、一緒に来た相方がね」

なんか代わりにイイもの持ってない? ジルは女の子に尋ねた
ごねてない! おれはごーねーてーなーい! と耳元がうるさい
女の子はえーうーと唸った後、ごそごそ自分の鞄を探り、コンビニのビニール袋を出してきた

「今日の朝、咽が痛くて買った “龍角散” ……私がいっこ食べちゃったけど、まだいっぱい入ってるよ?」

「ここにきて女子高生の食いさし!」

「だっ……だめ?」

「全然オッケー」

本当にいいの、もらっても。いいよー、と一通り会話して、龍角散を手に入れたジルは女の子と別れた
すぐに被服室へ引っこんだあの子は、ワンピース作りに戻ったんだろう

「キルシュ “りゅうかくさん” 食うか?」

「ごねてない」

「俺はいっこ食お」

「……なんでそんなもん貰ってきたんだ、特に価値ないぞ」

「んー……これは俺の勘なんだけど、なんか今日いろいろ貰うじゃん」

お、フルーティ―な味、ジルは飴をなめながらキルシュに話しかける

「もしかしたらこうやって交換してくうちに、俺たちの求めるマンガをくれる人が現れんじゃねぇかなって」

やってみる価値、ありそうだろ? ジルは戦利品を一つつまむと、耳元の相棒に差し出した


続く

だいぶ前に描いた運び屋とユイカ

かなり前に描いた運び屋



次回更新は遅めです

最初は茸うどん、この前は肉うどん、今日はカレーうどん
あと四人前残っているうどんどうやって食べよう、とりあえずカレー食べなきゃ
丸亀製麺のめんたい釜玉にちく天つけて食べるのが好きです

飼っているフェレットがパンツに穴をあけてくれました、わーなんじゃこりゃー
なにすんだよと言ってみても意に介さず、足元でぐねぐねしています

七夕祭り第三話

七夕祭り 「とある運び屋と文化祭前夜」

続き物の短め文章、全七回更新
第一話 「運び屋青年と相棒カタツムリ」
第二話 「運び屋とカフェテリアのことりちゃん」

とある運び屋と文化祭前夜・3 「運び屋と生徒会食堂の笹山さん」
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笹山さんは詰めが甘い系女子である
決してドジッ子ではない

具体的な例をあげるなら、玉子焼きを作ろうと材料を調べ、作り方を調べ、道具を用意し、手際よく卵を混ぜるまでは良いのだ
が、普段あるはずの砂糖をその日に限ってストックを切らしてしまう、そんな感じ
ちなみに由緒正しい、古式ゆかしい、ステレオタイプなドジッ子は、ここで 「砂糖と塩を間違えちゃったー★」 をやらなくてはならない、必ずだ
玉子焼きなら間違えても全く問題無いんだけどね
笹山さんの場合、砂糖がないとわかればすぐに出し汁を用意し、甘い玉子焼きの予定を青のりとジャコ入りのだし巻き玉子へ変更する
彼女は器用だ

「うん、私、代わりを探したり復旧させたりは得意なんだけど……さすがに無いものは作れないんだよね……」

ああ、高校生の迂闊さを甘く見てた、どうして目を離しちゃったんだろう、笹山さんは自分の詰めの甘さを後悔していた
彼女は生徒会役員であり、文化祭では上級生有志による生徒会食堂の責任者を担当
文化祭前日の現在、家庭科室では食堂で出すメニューの下ごしらえ中である
作るのはおにぎり、豚汁、キツネうどんの予定、問題はキツネうどんで起きていた

「全部注文で材料買ってるから欠けは無いはずなのにのに、どうしてキツネうどん用の揚げが無くなっちゃうのかなぁあぁああぁ?」

「だってぇ、豚汁にいれると思ってぇ……」

他の材料と一緒に刻んで豚汁に入れちゃった、ごめんごめん! 大事な材料を細切れにしてくれた同級生の謝罪は軽い
笹山さんの機嫌はストレスでマッハである
しかし、何をしてもごめんで済ませるしかないのが高校生の辛いところだ、責任とって新しい材料買ってこい! とは言えない
昨日はバザーで出す手芸品作りに徹夜して、疲れから注意散漫だった自分も良くなかった
私がどうにかしなくちゃ、笹山さんは睡眠不足の頭で思案する
揚げが無いならいっそ素うどんとして販売は出来ないか、いや、既に食券の印刷も終わっているし、文化祭パンフレットの記載は変えられない、もう豚汁に入ってしまったから刻んだ揚げで作るのは不可能、となると

「……先生に謝りに行こう、それで新しい材料買わせてもらえるか、お願いするしかない」

やっぱり高校生はごめんなさいしかできない、そう諦めた

「すいません! 笹山ちゃんいる?」

その時、職員室へ行こうとする彼女を呼ぶ声がした
クラスメイトの友達だ、つかつかとこちらに向かってくる

「バラ子ちゃん?」

「笹山ちゃん! 家庭科室、明日用にたくさん氷作ってたよね、少し貰えない?」

「うん、いいよ。でも何に使うの?」

「使うのはあたしじゃないんだけど……」

笹山さんがバラ子の視線の先に目をやると、そこには大きな箱を抱えた見知らぬ青年が立っている

「配達業者のお兄さん、保冷用の氷が欲しいんだって、豆腐たくさんもらっちゃって持って帰るのに使うから」




保冷剤を探すジルは、運良くこの学校の家庭科室へたどり着き、氷を手に入れようとしていた

「なぁなぁキルシュ、この大量のトウフでマンガ買えたりしねぇかな」

「本屋で物々交換は難しいなぁ」

「豆腐を! お持ち! ですかぁっ!」

『ふぁっ?!』

ジルとキルシュの前ににょきりと女の子が生えてきた
シュシュで緩やかに髪をまとめ、制服の左腕には臙脂色の腕章をつけている
ジルの抱える箱を見て、わ、ほんとにいっぱい入ってる! と感嘆の声がもれた

「何かなお嬢さん。コレ好きなの? お兄さんが一つか二つあげようか「是非いぃぃっ!」

凄く被り気味で女の子は答えた、なんだこのトウフ需要

「出来ればたくさん! いっそ全部ください!」

「ぜんぶぅ?!」

「お願いしますっお願いしますっ! それがないと、それがないとわたしぃ……!」

「わかったわかった! あげる! あげるから! お嬢さん泣かないで! すごい見られてる! こんなに周りの視線が痛いの初めて!」

腕章をつけた女の子は周囲の視線もよそに、ジルの腕にしがみついてがっくんがっくんゆさぶってくる。
廊下に声が響くし、このままでは警備員を呼ばれそう
何事か全くわからないが、とりあえずトウフをあげた
女の子の細い腕には相当重いだろうに、興奮しているのか顔を上気させて家庭科室へ自ら運び込む

「俺はトウフ食べてみたかったぞ?」

何で全部あげてしまうんだ、キルシュはぼそっと訴えた




「今すぐ! みんなありったけの油持ってきて! 揚げ物鍋も!」

「笹山ちゃん!? もらってきちゃったのそれ?!」

「うん、もうこれしかない!」

笹山さんは箱からガンガン豆腐を出す
作業に一切の迷いがない

「豆腐を水切りして、切って揚げる! きつねうどん用の油揚げ、今からこの豆腐を使って自作する!」

手早く並べた白い塊に、水切り用のバットをのせた



「なんか大変そうだな」

ジルは未だ家庭科室の前にいた
どうやらトウフのおかげで、危機的状況がどうにかなりそうという空気になっている
調理する気満々のようだし、持って帰る手間も省けた。まあちょっと食べてみたかったが、あの子が救われるならそれもいいだろう

「手元も軽くなったし、帰るか」

「あ、待って!」

背を持けたジルのもとに女の子が戻ってきた

「突然だったんですけど、ありがとうございました! おかげでちゃんとキツネになりそうですぅぅぅ」

「きつね? 良くわかんねーけど、君が喜んでくれたんなら俺は満足だよ?」

「それで……もらってしまった変わりにもならないんですけど……」

布製の手提げ袋だ、エコバックですと言われたが、えこばっくが何だかわからない

「文化祭のバザー用に私が作ったんです、これくらいしか私から渡せるものが無くて」

「くれんの? 別にいいのに」

断るのも無粋だろうと、ジルはえこばっくをもらった
じゃ、きつね? 頑張ってね。家庭科室を離れるジルに、女の子は手を振ってくれた
笑っているとなかなか可愛い、年上の方が好きだが、これはフラグを立て損ねたのかもしれない

「おーキルシュ、この ”えこばっく” ってやつ手作りなのにそこそこ良くできてるぞ、内ポケットいっぱいついてる。 お前今度から俺の上着じゃなくてこの中で寝ろよ」

「断る、お前の上着の居心地が良すぎるのが悪い」

「そーかいそーかい」

そうだそうだ! と耳をつつかれた


続く

一年くらい前に描いた笹山さん
ハンバーグのハンバーガー1

七夕だ! 案の定天気悪い! いつものことです
今日はちょっと頑張って夕飯作るぞ!
まずは定番の洋風チラシだ!

七夕祭り第二話

七夕祭り 「とある運び屋と文化祭前夜」

続き物の短め文章、全七回更新
第一話 「運び屋青年と相棒カタツムリ」

とある運び屋と文化祭前夜・2 「運び屋とカフェテリアのことりちゃん」
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「豆腐一丁」という単位は統一されていない単位である

百グラム程度の小ぶりなものから、手から溢れる四百グラム級まで、要は四角四面に成型された塊なら 「丁」 を使って数えることができるのだ
だいたい地域ごとに基準の大きさが定まっていて、沖縄で流通しているゴーヤーチャンプルーの材料 「島豆腐」 は、一丁なんと一キロもあるらしい
などと豆腐だけに豆知識を披露してみたところで状況は全く変わらない
目の前に積み上がる豆腐タワーが梱包材も含めて12キロあることは、ことりにとってどうしようもない事実だった



「は、発注ミスっ?!」

学校のカフェテリアで働く小鳥遊ことりは、思わず剥いていた玉ねぎを落としかけたが、器用にボウルでキャッチする
愛想のいいおじさんの調理チーフは苦笑いしつつ、ことりが間違って出した注文表を持ってきた

「ことりちゃん、同じ注文を二回流したみたい、麻婆豆腐丼の材料が倍来てるよ」

「す、すみませんっ、ご、ご、ごめんなさい……!」

「あー、いいよ、いいよ、もう来ちゃったもんはしょうがない」

慌てて頭を下げることりに、チーフはヒラヒラと注文表を振ってみせた
その様子に、良かったあんまり大事にならなかったみたい、と安心したのもつかの間
でも責任はとってもらおうか、そう言ってチーフはことりの目前に、ドンっと食材の保冷ケースを置いた
麻婆豆腐丼用の木綿豆腐だ
半透明のケースの中は、上から下までみっつりと真っ白な豆腐が収まっていて、箱そのものがまるで大きな一丁の豆腐のように見える

「肉や香辛料は保存が利くけど、ちょっと豆腐はね、使いきれないし冷蔵庫いっぱいだし、ついでに文化祭だから学校側のゴミ優先で今日は廃棄出せないから」

本当はいけないんだけどと前置きしてチーフは箱ごと、ことりにずいっと差し出す

「ことりちゃん、この余った豆腐買い取りってことで、全部自分で処分してね?」



業者用の搬入口から入った運び屋二人は、カフェテリア職員用の控え室の前に来ていた

「こんにちはー!お荷物お届けに参りましたー!」

声をかけながらジルが控室の扉を開けるとそこには

「どうも、お疲れ様です……」

長い三つ編みにピンクのエプロンをした若い女の子が一人で椅子に座っていた
なんだか声に元気がないが、黒目勝ちな目に、地味な服越しでも凹凸を主張する健康的な体、高すぎず柔らかい声と、首をかしげるように会釈をする仕草
正直、好みだ
ジルの行動は早かった

「お姉さん! 可愛い顔を曇らせてどうかされましたか! 何かお困りですか! 僕でよろしければ助けになりましょぉう!」

「え?」

「おいジル! ここ仕事先!」

「ははっ何言ってんだ、可愛い女の子が困ってたらまず声をかけ好印象を残し、すかさず次に会うきっかけを作るのは俺のライフワークだぜ」

「運び屋は復業扱いか!」

「えーと、あの、荷物届けに来たんじゃないんですか?」

突然握られた手をやんわり放しながら問われると、そうだったそうだったと、ジルは台車にのっている巨大なダンボールを運び入れた
チーフが頼んでた新しいカレー鍋ですね、と珍妙な鍋に突っ込みもせず、あっさり受け取る
女の子には重かろうとジルは部屋の奥まで持っていった
最後に受け取りのサインをもらう

「あの、さっき助けになってくれるっていったの、本当ですか?」

サインしてペンを置いた女の子は、おずおずと、しかし期待を滲ませた様子で話しかけてきた

「はい! もちろんですお姉さん! 僕は素敵な女性からの相談は内容を聞かずともオールオブイエス! ですから!」

「お豆腐、好きですか?」

「僕よりトウフを愛しているやつなんざ、この銀河系には存在しませんよ!」

それを聞くと、ちょっと待ってて下さいね! と言い残し、女の子は調理場へ飛んでいった
ジルはふぅと息を吐くと、カタツムリことキルシュに声をかける

「なぁ、トウフってなんだ食えるのか」

「そうだろうと思ってたがやっぱりわからんのか」

「だって知らないっつったら会話止まっちゃうだろ、キルシュ、教えてくれよ」

「俺が知ってると思うのか」

「ですよねー」

あははは、と危機感無く笑う二人のもとに戻ってきた女の子は、たくさんの白いものがつまった箱を机に置いた

「実は私の注文ミスでたくさん余らせちゃったんです、良かったらいくらでも持って帰って下さい」

「ジル、トウフはたぶん食べ物だ、匂いでわかるぞ」

耳元にいるキルシュがジルだけに聞こえるように教えた
キルシュは目と耳が悪い、だがその代わり、味覚と触覚、さらに嗅覚が素晴らしく良くきく
たとえ密封されたものでも、僅かに漏れる匂いから判断が可能だ

「お姉さんはいらないんですか?」

「私は、頑張っても3丁か4丁が限界なので。これ30丁もあるんです」

「誰かに配ったりは?」

「あ、そうですね、お隣さんに1丁もっていこうかな」

「了解、じゃ、5丁!」

たんたんたんとジルは箱から5丁取り出すと
残り25丁が入った箱の方を持ち上げた

「残りは僕がいただきましょう!」

「ええ?!」

「僕超大喰らいなんで、これくらいペロッといけちゃいますよ!」

「でも、そんなに?」

「運び屋ですから、でかい荷物も積めますし、もちろんちゃんと食べますよ! それともこれ持って帰りますか? それならお姉さんのお宅まで運んじゃいますけど」

こんな重い箱抱えて女の子を帰らせるなんてさせませんから! そう言いつつジルはニッと笑った
全力100%の営業スマイル、ただしライフワークの方の営業で
じゃあお言葉に甘えます、おいしく食べてくださいね、と女の子はそのままジルに豆腐の入った箱を渡した
あわよくば自宅住所ゲットを狙っていたがそれは叶わなかったか

「なんだか助かっちゃいました、いつかお礼しないといけませんね」

「いやーお礼なんてー気が引けちゃうなーお構いなくー、ところで連絡先を交換したうえで、後日僕と一緒にお食事でもいかがですか」

「どの辺が引いているんだジル」

「じゃあお豆腐料理でも作りましょうか、私、料理は得意なんです。2人前も3人前も同じですし、家で一緒にお夕飯でも」

なかなかいい感じに話が進んでいる、ジルが女の子に声をかけた時の勝率はかなり低いのだが
今回は行けそうな雰囲気になってきた
料理が得意で2人前も3人前も同じなんて、家庭的でますます好みだ……ん? 2人前?

「一緒に住んでる彼の分も、毎日作ってるんですよ」

笑顔が、まぶしかった



「せっかく恩返しができると思ったのに、どうして宅配さん帰っちゃったんだろ」

仕事を終えたことりは、自宅で夕食の準備をしていた。もちろん豆腐フルコースだ
ちなみに自宅といっても、勝手にことりが上がりこんで居付いただけで、本当の家主からすれば、ことりは恩義にかこつけてやってきた押しかけ女房なのだが
おっとりに見えて、実はけっこうしたたかな性格をしている

「また逢えたら、その時にでも恩返ししよ、そうしよ!」

ことりはボウルの中で豆腐をつぶした、今日のメニューは豆腐ハンバーグだ



「……終っちまったな」

「いや始まってすらいなかったが」

ノリでもらってしまった白い謎の食材を抱え、ジルは廊下に立っていた

「どうするんだ、それ」

「普通に食べる、俺が大飯喰らいなのは事実だし、スグルなら食べ方知ってるだろ」

「捨ててもいいんだぞ?」

「ばっか、俺は一度した約束を破ったりはしねーの」

あの子、食材無駄にしたくないみたいだったし、とぶつぶつ言っている
キルシュはジルの耳元から這い出すと、抱えている箱に飛び降りた
足で温感を感じ、嗅覚で素材を調べる。触るだけでキルシュには大まかな荷物の内容がわかるのだ

「ふん、たぶん豆でできているな、これなら俺も食べられそうだ。あと、あまり高い温度に置かない方が良い、水分が多いから、すぐに悪くなるぞ、冷蔵保存だ」

「やっぱり? まずいな、今日宇宙船に冷蔵設備積んでこなかったんだよな」

キルシュを箱からまた耳元へ、隠すように移動させてやりながら、ジルは考えをめぐらす
冷蔵設備は積まなかったが、保冷機能付きのケースは宇宙船にあったはずだ

「どっかで冷やすもの貰ってこようか」

箱を抱えたまま、二人は生徒たちのいる校内へ向かった

続く

だいぶ昔のことりちゃん
プロフィール

仲田 静

Author:仲田 静
なかた しず
むっつり系マンガオタク

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